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雪山で死なないための用意
これを着てこれを持っていれば生還できる 冬山、天気のよい日にピークを目指すときどんなウエアを着ていけばよいのだろう か。ザックのなかには何をいれておけばよいだろうか。 好天に恵まれたな1日なら、 デイパックに非常食と防寒具くらいを入れて、「薄もの」の行動着で出発、雪の斜面 がでてきたらアイゼンをはき、ピッケルを持ってサクサクと頂上に達し、ルンルンと 下りてくることができる。 パックも軽いし気分も軽快、こんな山行が何度か続けば、 「雪山なんてかんたんさ」ということになりがちだが、チョト待て、ほんとうにそれ でいいのか、緊急時のための装備は? というのがここでのテーマである。 天気が よければつぎにやってくるのは悪天にきまっている。 急に風が吹いてきて、雪が舞っ てくる。視界が閉ざされ、やがて吹雪き、トレールが消えて、道を失い、さまよった あげく、夕暮れが迫ってくる。焦っているせいか斜面でスリップしてねんざしてしまっ た。遭難という言葉が脳裏に浮かぶときである。こんな場合でも、「生きて帰ってく るための装備」があれば落ち着いて行動ができる。 ウエアー 吹雪がやってくると、その凄まじさに驚いて気持ちとカラダが負けてしま いがちだ。頭はパニックになりカラダが固くなって正確な行動ができなくなる。そう ならないためには、吹雪に強いウエアを身につけておきたい。 まず第一はしっかり したアウターが必要だ。防水透湿性素材の、丈夫で軽くしかも動きやすいもの。日本 の雪山では雨がふることも多い。完全防水であるのは当然だが、そのうえ行動中の汗 が外へでていくものがマスト。フードの形がよいものは強風を防いでくれる。同時に バラクーバ(目出帽)は必携アイテム。ジャケットだけでなくボトムも同じものをそ ろえたい。完全なアウターがあれば吹雪もなんのその、外はそよ風よ、の気分で余裕 をもって行動ができるはず。もちろん登山用のアンダーウエアとフリースなどの中間 着を自分好みのレイヤードで身につけておく。ジャケット類を一日中着ている必要は ない。陽気がよければパックの中にはいったままで出番がないときもあるだろう。グ ローブもおなじで、行動中は化繊やウールのうすい手袋でも役に立つが、冷え込んで きたり、吹雪きになったときは完璧な防寒性のあるデラックスなグローブがパックか らすぐ出せるようにしておきたいものだ。アウター同様にグローブにもお金を惜しん ではいけない。手が冷えきると勇気も失われるのである。 迷わないためのギア 雪山ではいつかきっと道に迷うと考えよう。コンパスと高度計と 地図の3点セットは必携。これで自分のいる位置が特定できる。登山者の多い雪山で はトレールが明瞭だが、ひとたび吹雪きがくればトレールは消えてしまう。夏の道は 雪の下だから、基本的には雪山では自分でルートを作っていくことになる。道迷いは しばしばおきる。3点セットでつねに自分の位置を確認しよう。GPSというハイテクギ アも有効だ。 道に迷うと時間がどんどん過ぎていく。すぐに暗闇が訪れる。 ビバークに備える 雪山ではいつかきっとビバークしなければならないときがくると 考えよう。 暗くなる前にビバークの準備を始めることになる。長時間寿命のLEDの ヘッドランプを出して暗闇を追放。パックの底から超軽量ツエルトを出して設営、こ んなときのための超軽量の羽毛服を例のアウターの下に着込む。コンロセットを出し て火をつけお茶でも飲もう。カラダがぬくぬくしてきたら、非常食をとりだしてサバ イバルな夕食を楽しむ。携帯電話か無線機を使って下界と連絡がとれると安心だ。外 は厳寒の暗闇でもツエルトの中は別世界。仲間がいれば心強い。隠しもったウイスキー でもでてくれば余裕もでてくるだろう。明日の行動予定を落ち着いて考えるときだ。 以上の装備を持っていれば、命がけの雪山のビバークが余裕の雪上キャンプにかわ る。グループの場合でも、ツエルト、ロープはともかく、基本的には各自がそれぞれ を持ちたい。そんなにたくさんいつも持っていくの?という質問がありそうだ。コン パクトで軽量なものをセレクトすればそれほどのカサや重さにはならないはずだから (せいぜい1キロか2キロ)、常時携帯をおすすめする。雪山で死にたくなかったら、 それが常識と考えよう。 もちろんスピード登山や高所登山、冒険的な雪山登山を目 指すエキスパートにはこの常識はあてはまらないかもしれない。彼等は軽量化のため リスクを承知で冒険精神のおもむくまま常識的装備をも省いて行動することがあるの である。 日帰り登山や山小屋利用ではなく、一泊以上のテント山行の場合について は、幸いにもここで挙げた装備が必ず携行されているはずだから、装備の不足による 遭難はおきないはず。(文 糸尾汽車 イラストレーションS 村上智行) いちばんいいモノを。ぶかぶかのものを 話 小西浩文 雪山は自然条件が厳しい。どうしてもヤバイ状況にでくわすことがあります。そん なときはパニックにならない沈着な精神的耐久力が必要です。強い肉体も必要ですね。 装備も重要です。雪山装備を買うんであれば信頼できるいいものにしてください。 命を預けるものですからケチるとろくなことにはなりません。いいものは高価なもの になりますがそれだけの理由があるのです。 大切なポイントは、雪山のウエアはす べて大きめのものがいいということです。アウターはもちろんブーツ、手袋などゆっ たり目のものが保温力が高いです。ぼくはほとんどぶかぶかに近いワンサイズ上のも のでそろえています。足先はとくに冷えますから雪山専用の大きめのブーツにしてく ださい。 ヒマラヤと違って日本の山は湿気が多いです。だからアウター類はすべて ゴアテックスをつかったものが絶対必要ですね。シュラフカバーもそれでないとどん ないい羽毛寝袋も濡れて役にたたなくなります。 (こにし ひろぶみ 登山家 8000メートル峰14座無酸素登頂を目 指している。現在6座を登り、2002年には3座の登頂を予定している ) これがあればあなたは生きて帰れる 1 インナー羽毛服 薄手のシェルに上等な羽毛入り。ウルトラライトでコンパクトに なるもの。モンベル製は最新。ふだんは使用しない 2 グローブ ゴアテックスのシェ ルで中綿が厚いもの。シンサレート入りもよい。ミトンタイプのほうが保温性は高い が 3 バラクーバ アンダーウエア生地か薄いフリースのものがよい。ネックゲーター としても使える 4 帽子 ウールかフリースのもの。頭は意外と寒さに強いから厚い必 要はない 5 アウター上下 ゴアテックスを使った本格的な雪山登山用を。インナーに はフリース、登山用アンダーウエアを着る。行動中は別に薄手のシェルを使うのも賢 い方法。各社の高級商品から選びたい 6 ブーツ アイゼンがしっかりと装着できる雪山用の登山靴であること。プラスティッ ク製か、最近は皮革製のすぐれたものがでている 7 コンロセット 最近人気の小型軽 量バーナーとチタンコッフェル、寒冷地用ガスバーナーは大きいものをもちたい。さらに 出がけにテルモスに暖かいお茶をいれておけば最高 8、 9 コンパスと高度計 もちろん地図が必要。機器ものとしては携帯電話や無線器など もほしい 10 、ヘッドランプ LEDの長時間持続タイプできまり。ペツルがポピュラー 11 、ウルトラライトなものを。これもふだんは使用せず。お助け丸のシェルター、ア ライテントかICI石井あたりのもの 12、 ロープ グループにひとつほしい。6ミリの 30メートル。あるのとないのとで生死の境となる 13,14 アイゼンとピッケル す ぐ取り出せるところにつけておこう。ピッケルは落とさないようにシュリンゲでカラ ダからアンカーをとっておくこと。使用中にアイゼンが外れることがないように厳重 にチェック。落としてしまったら命取りとなる 15。 非常食 すぐに食べられるすきな ものを。コンビニで調達できる text edico itoo kisya