IN THE WOODS

cascade

カスケイドのスキー


5月連休の前に男3人でスキーに行った。最若手のまっちゃん、カメラおやじ亀
吉、そして私。30ー40歳代のけして若くはないグループ。どこへ行ったかと
いうと、アメリカである。アメリカの山といえば、ロッキー山脈が有名だが、今
回訪ねたのはカスケイドの山である。それってどこ? と必ず聞き返されるほど
知られていない山脈かもしれない。が、マウントレニアと言えば、知っている、
という人もいよう。まさに知る人ぞ知るアメリカの名山であるが、それがこのカ
スケイドの代表選手。われわれはそのレニアを滑ったのである。えへん。そのほ
かの山にも行ったのだがとにかくそのレニア山の話し。

ロッキー山脈がおおむね北アメリカ大陸のコンチネンタルディバイドつまり大陸
分水嶺となっているのだが、カスケイド山脈はもひとつ西海岸寄り、カナダから
カリフォルニアに向かって並ぶ大きな山脈である。富士山のような独立峰がいく
つもあって、それらを取り持つように、ピークとピークの間に山なみが並ぶ。ち
なみに,カリフォルニアに入ると、この山なみはシエラ山脈と名前をかえる。
連休前の旅は空いていてよい。飛行機のチケットも安いしいうことなし。3人と
も自由業という名の不自由な商売をしているのだが、こんなときは便利だ。うま
く日程が合わせられて行きは全員一緒。

シアトルがこの旅の基点になる。レンタカーを借りて意気揚々とスタートしたと
いいたいところだが、そのレンタカーがかなり高価なものだった。中年らしく旅
を快適にしようと、大型の4輪駆動のものを借りたのだが、フルインシュランス
とかいう、万全で最高の保険をつけたところあっといまに予算オーバー、さらに
このワシントン州の高額な消費税などを加えると定価の倍の値段になってしまっ
たのだ。アメリカのレンタカーは安いというイメージがあったが、今回は別。そ
のうえ円安傾向で、旅行者にはタイミングの悪い時期でもあった。

ま、しょうがないか。

これでどんな事故がおきてもまず大丈夫。

安心安心。

3人はうなだれながら、高級な新型フォードを操ってゆっくりとレニア山へ向か
ったのだった。
4月というのはこのあたり、ワシントン州あたりは雨が多いのだという。その評
判のとおり、空は黒雲が流れ大粒の雨までやってきた。レニア山はシアトルから
100キロもない。その秀麗な姿が見えるはずなのだが今は無理。タコマ市のあ
たりでアメリカ最大の山道具チェーン店reiに寄って、情報と装備若干をととの
える。タコマ市で思い出したのだが、レニア山はこのあたりにたくさん住んでい
る日系人からはタコマ富士という名前で親しまれているという話しは有名だ。戦
前から横浜とシアトルを結ぶ定期航路があってこのワシントン州は日系人が多い
のである。大気圏コースといわれるようなのだが、日本に一番近いアメリカ合衆
国本土の都市はシアトルなのである。だから氷川丸などの船がひんぱんに行き来
したのであった。国を離れた日系一世の方たちは1年中白く輝くレニア山をみて
富士山を思い、国を思ったのである。

いきなりレニア山に登ってスキーというのはたいへんだから、その前に近隣のス
キー場で足ならしというプランだった。まずレニア山の東山麓の スキー場をた
ずねる。がすでにスキー場は終わっていた。この4月中旬の時期、日本でもスキ
ー場はだいたい閉まっているものなのである。そういえば、タコマのあたりでは
桜が満開だった、

季節感は日本とそれほど変わらないようだ。事前調査が不十分だからこんなふう
に当てが外れるのだが、3人は、ましょうがないか、とめげることはない。スキ
ーをひとなでしてから、再びドライブモードにはいる。

reiのおじさん店員の情報では、この東山麓からぐるりと南に下って、レニア山
の南登山口に達せられるということであったが、それは間違いであった。道路は
閉鎖されていた。これは日本で得た情報のほうが正しかったようである。先の峠
にはまだ雪が残っているのかもしれない。いまごろでも雪が降ることもあるのだ
ろう。

標高1500メートルのパラダイスの南登山口へは、もういちど北に戻り、西山
麓まわりで行かなければならない。

桜やヤマブキ、スミレなどが咲き乱れる山麓の細道をくねくねと行く。点在する
開拓牧場が絵葉書のよう。

おれの知っている砂漠だらけのアメリカの田舎とはぜんぜん違うね、ここ。北海
道か山形県という感じかな。と亀吉。

ほんとうに緑がみずみずしい。

アメリカ人が一番住みたい町はシアトルらしいよ。緑と海がいいらしんだ。

でもシアトルは天気が悪いせいか自殺者がアメリカでいちばん多いんだ。

まことしやかな車内の会話である。
ワシントンととなりのオレゴン州は林業が盛んである。これは本当。ときどき巨
大な丸太を山のように積んだトラックと行きかう。

再び車内の会話。
そういえばビッグフットという山男がでてくるハリウッド映画があったな。

死んだジョン・キャンディがでてるやつだ。

あんなに太っていると早死にするよな。
大迷惑というロードムービーがキャんディの最高傑作だな。

相棒のなんとかマーチンは相変わらず面白いね。

ユーガットメイルにでてくる大きな本屋の下にあったのはスターバックスコーヒ
ーだよね。あれはシアトルかな。

ちゃうちゃう。ニューヨーク。シアトルがでてくるのは「めぐり会えたら」。

本当のタイトルはスリープレス イン シアトル。

スターバックスコーヒーはシアトルに本店があるんだよね。山から降りたら行っ
てみよう。

シアトル3大名物は、スターバッックスとマリナーズとボーイング社なんだ。

そうこうするうちに田舎道をはずれ、探していたモテルがでてくる。日が暮れて
きているというのになかなかモテルが見つからなかったのだ。

このモテルで今日はいいんじゃないの。

町の名前はイーートンビル。モテルの名前はミルビレッジ。
国立公園のゲイトの近くにあるというのにオフシーズンのせいか宿代は安かっ
た。
レニア山の廻りをぐるりとしたのに、今日は本体をみることはできなかった。
小さな町、レストランは選択の余地もなかった。アメリカンレストランで肉など
食す。町をぶらついてミルビレッジモテルの意味がわかった。水車小屋の村とい
う名前は、この村にかつて製材所があったところからきていたのである。レニア
山麓から切り出した大木を、水車や蒸気を動力として製材していたのであろう。
まっ赤に錆びたレールが延びる森林鉄道がまだ残っていて、バーに改造された客
車や蒸気機関車などが町外れに並んでいた。

レニア山のスキーの話しであった。
翌朝、山がかすかに見えるようだった。さっそくフォードを登山口へと走らせ
る。国立公園の入り口で入園料をはらい、パラダイスという名前の登山口へは針
葉樹のもりのなかをくねくねと登る。

雪の壁に囲まれた駐車場につく。天気はいまいち。ピークは見えないがレニアの
山肌が凄味をみせる。氷河のある山は迫力がちがう。スキーヤーやスノーボーダ
ー、登山客などが三々五々。ここにはビジターセンターや宿泊施設などがある。
さっそくシールをつけて、見えないピークに向かって登りはじめる。いくつもの
スキートレイルがあって適当にあとを追う。

ピークを目指すといっても、スキーで頂上へいくことはできない。上部には絶壁
もあるのである。パラダイスが標高1500メートル、頂上は4200。日帰り
で登れる山ではない。今日は足ならし。1時間ほど登ったところでガスと風がで
てきたのでたっぷりと休み、いっきに下る。快適なスキーイングであった。

 なにはともあれ、レニア山の巨大なカラダに触ってひと滑りしてきた。足慣らし
としては充分、と満足な夕食をとる3人であった。とはいえ、われわれはいまだ
その完全な姿を見ていない。もっと近くでレニア山を見たい。ほんとうの事をい
うと、3人には頂上へ登るつもりはないのである。初めからロープやテントなど
その用意をしてきていない。この時季頂上アタックは相当厳しいものがあること
を知っているから。それでも中間地点くらいまでは登って降りてきたい。それが
今回の本音だ。その目標はミュアパス。避難小屋のあるハイキャンプだ。明日は
晴れるだろうか。
あけて翌朝。モテルの庭からみるとレニア山が朝日に輝いている。意外と小さく
見える。期待感が大きかった分そうなるのだろうか。早速出発。
フォードが峠を超えるといきなり眼前いっぱいにレニア山が現れた。氷河が凄い
迫力だ。今日はかなり上までいけそうだ。パラダイスの駐車場はスキーヤーや登
山者でいっぱいだった。
天気もいいし、ミュアパスまでは大丈夫そうだから、各自のペースで行こうよ。
と僕。

行ける所までいってそこで待ってるよ。と亀吉。

ぼくはいい所があったらそこで写真をとります。のんびりいきます。とまっちゃん。

この言動は3人のいつものパターンである。
先行する登山者のトレイルがあってそれを追う。ミュアパスまで行きたい。一個
所急なところがあったが、ステップがあってそれを利用してなんとか登る。亀吉、
まっちゃんは、もうずーっと後ろに点のように見える。思ったよりも長かった。
ミュアパスの避難小屋が見えてからも遠かった。結局4時間かかった。先行の登
山者が小屋のなかにいるようだったが、あいさつして、外でひとやすみ。
見上げるとレニアに続く岩峰がそびえる。ここから先はスキーではちょと無理だ。
きょうここまで上がってきたのは先行の彼と僕だけのようだ。

シールを外して滑り出す。滑りやすい雪質だ。だれも見ている人はいない。だれ
を待つこともないからマイペースでどんどん飛ばす。
あっという間に仲間のいるところに到着。

どこまで行ったの?

ミュアパス、と答える。

やったね。

遠征隊ならとにかく成功ということじゃん。
なんのことだかよう分からんが、いちおう目標は達したかのようだ。
このあたりから見ても周囲の山々は眼下に広がっている。
ワシントン州でいちばん高い山にいるという実感がわく。
3人で思い思いのシュプールを描きながら駐車場に戻った。
結局ミルビレッジモテルには3泊したことになる。
毎朝コーヒーをもらいにロビーに行くと、おばさんが、コーヒーにチョコレート

シロップをいれるといいよ、といってわたしてくれる。

今日も泊まるかい。

イエス。という会話が続くのだが、これも明日でおしまい。
このあともカスケイドの山旅はまだまだ続くのだが、とりあえず、以上レニア編
のレポート。

旅の終わり、シアトルで、くだんのスターバックコーヒー店にいってコーヒーを
頼んだら、ちょうどモテルでもらったコーヒーと同じ味のものがでてきた。アメ
リカ人は、チョコレートシロップをいれた甘いコーヒーが好きなのかもしれない。

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