IN THE WOODS

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バンザイする岳岱のマザーツリー

 原生林を歩いていると、どの木がその周辺で一番太く大きいか、枝振りが見事か探
してしまう。その付近の森の大元となったマザーツリーがどれなのかと見回し、そし
て、樹皮に触れ、幹に寄りかかり、彼女のこれまでを心に巡らす。
 
植物は人間と違って子だくさんだ。年に何千、何万という種子を周囲にこぼす。そ
のうちの大方は動物などの食料になり、大半は運良く芽生えても、十分な日差しを受
けずに枯れてしまう。だから、マザーツリーは自分の子を残すために、毎年毎年倒れ
るまでたくさんの種子を大地へと送り続ける。そして、徐々に純林をつくっていく。
その典型がブナの森と言ってもいい。
 
東北の山は亜高山帯を除くと、放っておけばすべてブナの森となってしまうと言わ
れる。それはブナが日陰でも育つことができる陰樹であるからだ。たまたま芽生えた
大地が他の木の陰であっても、いつかその木が寿命や嵐に負けて倒れたときに、大き
く枝を伸ばそうと待っているわけだ。もちろん、大きく育てぬうちに終わる幼樹がた
くさんある。
 
白神山地が豊かなブナ林に覆われているのは、ここが原生の森を残しているからだ。
長い年月をかけ、日を十分に受けないと育てない他の樹種を凌駕して、ブナが分布を
どんどん広げていったわけだ。そして、そんなブナの中にも、今、そして将来の白神
をつくっていく母なるブナ、マザーツリーがある。
 
今から5年ほど前、そのうちの一本、岳岱のマザーツリーを見に行った。当時は今
ほどガイドブックなども出回っておらず、その姿形は知らなかった。岳岱には素晴ら
しいブナの巨木がある、と何かの書でで読み、白神山登山の際に立ち寄ったのだ。
 そして出会ったのが「バンザイするブナ」だった。それは私が勝手に名付けたもの
だが、一目見たとき、そう感じた。空に向かってバンザイをしていると……。
 
最近は「400年ブナ」と言われ、白神のブナのシンボルになっている木だ。樹
高26m、幹周4m85cm。幹にはたくさんコブがあり、一面を苔が覆っている。明らか
に他のブナとは威光が違う。
 
しかし、そのバンザイするブナも今は片腕を下ろしてしまったという。数年前の台
風で一番下の太い枝が裂け落ちてしまったと、あるホームページで見た。このままで
は岳岱のシンボルのブナの樹勢が落ちることは必至で、何らかの対策を講じるようだ
が、はじめあるものはいつか倒れる。
 
バンザイするブナも片腕を下ろしたときに、そろそろ次の世代の子どもたちにバト
ンタッチする時期を迎えたということではないか。もし近い将来、このマザーツリー
が倒れたとしても、確かに次の森を後世に残した。彼女にしたら、それだけで「バン
ザイ」だ。機会あれば、彼女がどんな形で最後を迎えようとしているのか、倒れる前
にもう一度足を運びたいと思っている。              (松倉一夫)

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