MY FIRST SKI TOURING

初めての山スキー(ティトンパス・スキーツアー)

松倉一夫


 
ティトンパス・スキーツアー、アメリカワイオミング州(1999年4月30日)

 ティトンパスの駐車スペースにクルマを停める。すでに10台ほどクルマがあり、
滑ってきた山スキーヤーやスノーボーダーがいる。
 さっそく、われわれもスキー板にシールを着け南へと伸びる斜面を登り出す。ア
メリカに来る前に、一度だけ「田代かぐらスキー場」で試してきたが、まだ操作に
なれておらず、いきなり仲間から遅れる。時差ボケのせいか、すぐに息が上がりみ
んなについていくのがきつい。それでも20分ほどで通信小屋(?)のある稜線のピ
ークにたどり着く。
 すぐにシールをはずし、西斜面の樹林帯へと滑り込む。山スキーなら何とかなる
だろうと思っていたが、あまりに湿って重い雪にターンさえままならない。そんな
中、他の面々はこんな悪雪にも慣れているのか、次々鮮やかなシュプールを描きな
がら滑り降りていく。私はターンをしようと体重移動をすると、板のトップがひっ
かかり転倒。すでに下で待っている、仲間が心配そうに見つめている。
 やっとボトムまで滑り降りると、対面の斜面へと登っていく。重く滑らない雪に
、テレマーカーはシールも着けずに登るが、山スキーでは上手く登れない。シール
を再装着し登る。すでに、北田さんたちはかなり先を行ってしまった。
「このツアーについてきたのは間違いではなかったか」
 30分もしないうちに頭をよぎる。自分だけ今のコースを登り返し、駐車場に戻っ
て待っていたほうが賢明ではないかとさえ思う。
「みんな飛ばすけど、ゆっくり行けばいいですから」
 真壁さんが私に付き合い励ましてくれる。
 先に行っていた伊藤さんも、途中で心配げに待っていてくれた。
「歩幅を小さく、マイパースで来ればいいから」
 そうは言われても、どんどん先との差が開いていくのは心許ない。今日は3時間
ほどの足慣らしだから、どんなに遅れても心配はないが、本番になればそうもいか
ない。大した登りでもないのに、これほど息が上がり足が前に出ない。これではど
う考えても2泊3日のツアーは難しい。荷物も倍以上の重さとなるはずだ。もう少
し、様子を見て「ダメだ」と自分で判断したら、早めに参加中止を申し出ようと思
う。
「これでは足手まといになるのは間違いありません。みんなだけなら予定通り、ツ
アーを成功させられるのに、私がいたのではどんなご迷惑をかけるかもわかりませ
ん。私は登山口と下山口の送り迎えなどサポートに徹します」
 すでに、みんなになんと言うかも考えていた。ただ、そうは言っても、とりあえ
ず、この斜面だけは登らなければならない。20歩ごとに一息入れながらゆっくり登
り続けた。
「この先の稜線に出たら、僕らはみんなが下りてくるのを待ちましょう」
 真壁さんが、私の歩みを見てそう告げる。歩き出して1時間ほどで、ダメ出しを
されるのは辛いが、それでも、これ以上登らずに済むと思うと、「わかりました」
とお願いする。
 やっと森林限界となり稜線に出ると、さっき私を励ましてくれた伊藤さんと徳地
さんが、稜線の右手に広がる斜面の中腹まであがっていた。
「このバーンを滑れたら気持ちいいだろうな」と思うが、体は休みたがっている。
真壁さんがスコップで斜面をカットし休憩場所を作ってくれる。
 荷を降ろし、行動食を食べていると、しばらくで山頂からみんなが滑り出してき
た。なんともゆっくりしたペースだ。ビデオなどで見た豪快さとスピード感はない
。まるで、日光いろは坂をゆっくりゆっくり安全確認をしながら下ってくる観光バ
スのような速度だ。
「まるで、鳥餅の上をすべっているよう」と北田さん。
「おかゆのようだ」と溝辺さん。
 降りてくると、それぞれに開口一番、雪のひどさを口にする。昨晩の雨が湿った
雪をさらに重くしていたのだ。山頂では雪だとばかり思っていたが、うえも雨だっ
たようだ。
 全員が私と真壁さんのところまで滑り降りたところで、ティトンパスへ向け戻る
。しかし、すぐに壁が立ちはだかった。40度はあると思える急斜面。それに加え、
この悪雪。ほとんどゲレンデスキーしか体験したことのない私には、まさに未知の
雪の重さだった。
「斜滑降、キックターンで下りてくればいいから」
 伊藤さんは言うが、思いっきりつかない。
「松倉さん、そっちは雪崩れるかもしれないから、こっち側に」
 真壁さんが、木がある斜面へと誘う。と、伊藤さんが、私とは逆方向にトラバー
スした。その瞬間、斜面が崩れたのだ。
「やっぱり起こったか」
  以前、雪崩に巻き込まれて自力生還した真壁さんにが言った。誰一人慌てていな
い。雪崩は山肌をゆっくりと流れていく溶岩のようなスピードなのだ。
「今の雪なら雪崩れても手でつかめるくらいゆっくりだから心配ないですから」
 入山前に黒川さんが言っていた通りだった。
「大丈夫だから」
 伊藤さんの声に、私もこれならいざとなっても逃げ切れると、意を決し斜面をい
っぱいに使いながら斜滑降で横切る。そして、キックターン。それを繰り返しなが
ら高度を落としていく。そして、もう転倒しても大丈夫だというところまできたら
、あとは直滑降で谷底へと滑り降りた。
 再びシールを着け登高。北田さんたちは斜面を登り返して滑ってティトン・パス
に降りると言うが、私は黒川さんの先行で斜面をトラバースして直接駐車場に戻る
ことにした。ゆっくり樹林帯の中を巻きながら登っていくと、切り通しから左手下
に峠から下っていくハイウエイが一度見えた。さっきまで疲れ切っていた体が急に
元気になる。しばらくでトレースは下りへと替わりシールを外す。300mほど滑
ると一気に視界が開け、あっけなく駐車場に出た。
 ティトン・パスを出てから3時間半、私のはじめての山スキーのツアーはこうし
て終わった。

松倉一夫/Kazuo Matsukura

  

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