I saw the spirit of telemark-skiing
深雪のスロープを降りてくるその男たちを見たとき、私は眼を疑った。ヒゲ面を氷らせ 、急な斜面を舞い降りてくる二人の滑りは確かだった。パウダーをけたて、見事なスピ ードで彼らは迫ってくる。だが、そのフォームが異形だった。前傾の反対、つまり後傾 というよりもチョー後傾、というよりものけぞり姿勢と言うべきか。 背を弓なりにのけぞらせ、顔はといえば空を見上げ、両手は万歳、二本のストックは後 ろの空を突き刺している(絵をみてもらった方が早いね)。ポカン口からは奇声が発せ られ、恍惚のウツロ眼(でしょう)はなにも見ていない(木立もない大スロープだから とりあえず何かにぶつかる心配はない)。ストックも使わずテレマークの基本姿勢を大 胆に無視した不安定なフォーム、だが、彼らのパウダー滑りはパーフェクトだ。 やがて彼らは直滑降に入り、私の目の前で止まった。ビュウウウチフル! 『サンクス…』彼らは夢から覚めた顔で微笑む。 ”でもそのカッコウッて不安定なんじゃないの?” ”イエス。とても不安定。バット、これナチュラルあるよ” ”ふーん。で、そのフォームはなんて言うの?” ”ソードアーチと申す。のってくると自然とこうなるなり。フィーリングなり” これが昨年コロラドの山中で遭遇したテレマーカーの見せてくれたソードアーチの一部 始終である。 ソードアーチは刀のソリのことだから、そんな感じの姿勢ということになる。 人はうれしいときには、手を上げたり、飛んだり跳ねたりするものだが、スキイイング の最中だったらどうするだろう。パウダー滑りはテレマークスキイイングの花だから( 私はそう確信している)快適パウダーに酔いしれていると、エクスタシー状態に近づく というカンジはわかる。 しかしそんな快楽的最中でも、フツーのヒトはコケたら大変だと思うから(パウダーで コケる悲惨さは言語に絶するものがある)転ばないようにめいっぱい安定フォームをと ろうとする。それが普通だ。しかし彼らのようなエキスパートになるとテクニック以上 にフィーリングが優先されて、自然に、ソードアーチになってしまうということらしい 。 テレマークのヨウラン時代、手を高く上げて滑る独特のフォームが全盛だったわけで( スチーヴ バーネット!なつかしいね)それがもっと強調されたものがこのソードアー チ、と言う、見方もできるかもしれない。私の主観では、パウダーの大斜面をソードア ーチで乱舞して降りてくる光景はたいへん美しいものに見えたのだった。 ソードアーチはまさにポエムのある滑りだと思う。このテレマークスピリットに満ち満 ちた滑りをモノにして、今シーズンはパウダーに酔いしれたいと思うこの頃であります 。やってみたいひとは、私の描いたスケッチがヒントです。ただし、ハンパなソードア ーチでゲレンデなどにおじゃますると、ただの変人おじさん、マヌケじじいになります から、お互いに気を付けたいものです。(k)
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