ALMOST ALPINE CLIMBING
アルパインすれすれ
ドスドスヒーヒー、ハフハフと息を切らしてラッセルするワンピッチほど後ろ に、3パーティーが続いていた。膝やや上くらいの雪だけどこっちはひとり。息 も上がれば足も重くなる。もう抜かれてもいいや~とあきらめて座り込むと、後 続パーティーも差を詰めようとせずザックを降ろして休憩を始めた。やな感じ~。 こちらの休憩を適当に切り上げて再び雪と格闘しはじめると、後続パーティーも 行動を開始する。これってもしかして私のトレースアテにしてるの?!。とにか く進もう。もう少しで斜面もゆるむし、そうすればピークはすぐそこだ。さほど 神経を使うほどの傾斜ではないので、単調な機械作業のようなラッセルを繰り返 す。ようやくピークに続くほぼ平面の稜線に出た。ヤレヤレと汗をぬぐい、息を 整えていると後続パーティーはいつのまにか直後に忍び寄り、今までにないスピ ードで「こんにちは~、お先に~」と声を掛けるが横をすり抜け、ノートレース のピークへ一目散に直進。そりゃ~ないだろう。トホホホホ。今まで2時間近く、 がんばってきたのはアタシなのよ~。なんなのよ~。ガックリきながら着いたピ ークは記念撮影をする一番乗りに踏み荒らされて見る影もない。 悲しくなって視線を遠くに移して見渡せば、ドカーンと仙丈、北岳、遠くには バックリ落ちた大キレット、ツンと突き出た槍とおぼしき白い峰。対面の八ガ岳 最高峰赤岳上部は雲の中だが、見渡す限りの大展望がひろがっていた。すげ~き れい。ガックリした気持ちも、迫り来る後続のプレッシャーでイライラしたこと も、ラッセルの疲れさえも、360度の展望がすべてをうわまわる。 一番乗りしたパーティーのリーダーらしき男性が声を掛けてきた「いや~、あ りがとうございました。お若い方はやっぱり元気ですね~。おかげて助かりまし た。いや立派だ。はっはっはっ」。けっ何が立派なんだよ~。何がありがとうな んだ~。そう思うなら最後のアレはなんなんだ~!!。あ~あ。なんなんだよ この人たちは。うるさいよ~。無風のピーク響きわたる興奮しきったおばちゃ んの大声。また青筋が立ちかけたけど、再度視線を遠くに移してみれば、しょう もない事を考えるだけ無駄無駄という気持ちが涌いてくる。 「お疲れさまでした。」と言葉を返して、少し離れた場所にザックを降ろし腰を かけた。ちょっと「ズル~イラッセル泥棒」という言葉が頭をよぎったけれど、 そんな事 考えてせっかく登ってきたピークの喜びを無駄にすることこそ不愉快なだけ一層 無駄。まっいっか~。私って街ではおこりんぼど、山の中ではちょっと違うかもBACK TO "Beyond Risk" PAGE(寄稿とお便りページの目次へ)
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