SKI TRIP IN COLORADO

ワックスとコルクとスクレイパー

illust.nishihara syouichi
 
 名越礼子
 マーギーの小屋からD.J.に向かう日、前日雪だったので、朝一本滑ってきて、い
よいよ出発。ダンが今日はワックスで行く、と言う。私ワックスで登るの初めてよ、と言
うとそうか、そりゃいい経験だ。見るとコルクを取り出している。私持ってる、キタダサ
ンが持っていけと言ったのだけど、実は使い方知らないの。そばで聞いていたアメリカ人
が笑っている。ダンは私の値札のついたままのコルクを見て、600円か、何ドルだい?
 5ドル、ふーん、こっちじゃ4ドルだな。ワックスを取り出して、今ワックスは二種類
ある、ブルーとパープルだ、今日はパープルで行く、そう言って塗ってくれて、このかた
まっている所をコルクでよく擦るんだ、もう一度塗るから二度目は軽く塗ればいい。レイ
コの板はソールがピンクだから見えにくいけど、オレのは黒だからワックスがよく見える
んだ。なるほどねー。

 歩き始めると、後ろ滑りをする。ダンは、ワックスの歩き方にはテクニックがある、
シールの時のように滑らせないで、気持ち雪面から離して一歩一歩押しつけるようにする
んだ、それと、歩幅を小さくすること、と教えてくれた。その通りするとうまくいく。ナ
イス、上手じゃない。まったく、彼はよくおだててくれる。ところで、これって下りの時
は問題ないの? たまにはちょっと問題あることがあるけど、だいたい大丈夫だ。まあ、
こちらの方は概ねアバウトですからね。それでもちょっと急になると階段状にしなければ
ならない。日本なら多分階段で登ってしまうところだが、何しろこちらは距離が長いので
ワックスが有効なのだろう。

 途中広い所に出て、遅れている人を待っていると、ダンやジョージとやって来る。ず
いぶん遠回りのコースを来るので変だなと思った。合流して皆また出発する。皆が歩き始
めると、ダンは、レイコこっちへ来い、と言って、皆と違うコースを行く。あっちのコー
スは日が当たっているし、少し急だ、ワックスの時はなるべく日当たりと急斜面を避けた
方がいい、平坦な所や木陰を選んで行くといいんだ。なるほど遠回りだけど楽だ。 D.
J.からベティベアの小屋に登る日、フライパン川に沿っただらだらの道。始めシールを
つけたが、ローラはワックスだ。しばらく行ってやっぱりワックスにしようということに
なった。鈴木さんは、ワックス、ノー、と言って一人で行ってしまった。レイコどうする
? 私は少し考えて、これも経験だと思って、ワックスにする、と言うと、よし、じゃキ
タダのコルクを出せ、今日はブルーワックスだ。それにしても北田さん、どうしてコルク
だけ売って、ワックスを売ってくれなかったの? 鈴木さんに追いつくと、ダンは、私に

、ワックスはハッピーで楽しかったと言え、と耳打ちする。
 確かにワックスは軽快だし、時々下りがあるような林道などでは威力を発揮する。し
かし、日本のように湿雪で急傾斜の多い山では、出番は少ないかも知れない。

 ところで、ワックスを削り取らなければならない時がある。ある時、バインディング
についた雪をストックでつついたら、そうやるとバインディングが傷つくから、と言って
、片方金属、片方プラスティックのあるものを貸してくれた。私はそれを、ガリガリ、と
言ったら、日本ではガリガリと言うのか、と言うので、知らないけどこっちじゃ何て言う
の? スクレイパー。あー、何か聞いたことがある。日本でも多分スクレイパーだ。この
金属の方がワックスを削り取るものだ。そういえばプラスティックのを私も持っていたか
も知れない。北田さんがそれも持っていけと言ったかも知れない。すっかり忘れていた。
私は何度も、ダンからそのスクレイパーを借りた。最後の夜、ダンは、これレイコにプレ
ゼントするよ、と言って私にくれた。でも、明日使う時は、貸してくれよ、オーケー。と
いうわけで、そのスクレイパーは今私の手元にある。
  

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