IMPRESSION

街でみかけるロクスノシーン 松倉一夫


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 最近、街では若者の間でチョークバッグが流行っている、とあるテレビ番組でや
っていた。もちろんチョークを入れるわけではない。携帯電話を入れたり、小銭入
れを入れたりの小物入れに利用しているわけだ。
 考えてみると、山の用具やウエアは何かと若者のファッション・アイテムに取り
入れらてきた。古くはデイパックにはじまる。私が学生の頃になるから、20年ほど
前だろうか。学生の多くが、タウチェの水色や赤のデイパックを片方の肩にかけ始
めた。それから、ダウンベスト、ダウンジャケット、マウンテンパーカーなどが一
世を風靡した。
 時は流れ、デイパックはタウチェからグレゴリーへと変わり、さらにローやマウ
ンテンスミスなどの中型ザックを背負う姿も増えてきた。足元はレッドウイングや
LLビーンのワークブーツやフィールドシューズを経て、今はトレッキングシュー
ズだ。私などは、街なかでまで重く蒸れるトレッキングシューズを履きたいとは思
わないが、それがお洒落なのだそうだ。
 ウエアも今はフリースが大流行だ。中には2000円程度で買えるバッタもんも
多いが、軽く、暖かく、色鮮やかなジャケットは、若者も財布にも軽いようだ。
 こうした山やアウトドアを取り入れたシーンは街だけに限らない。テレビCMで
も盛んに取り入れられている。昔から一貫して冒険的シーンを取り入れてきたのは
「ファイト一発」でお馴染みの大正製薬「リポビタンD」だ。ロクスノのことを知
らなかった当初は、「おー、すげー」などと言って見ていたが、知るに連れ「セル
フビレーもとらずによーやるよ」「あんなでたらめやっていたら、いくつ命があっ
てもたりねー」だのと、逆の意味で楽しみながら見ている。
 他にも、テレビCMにもロクスノシーンはさまざまなかたちで登場する。2、3
年前にはマイルドセブンライトのCMで林間を軽やかにテレマーカーが滑るシーン
が使われた。考えてみると、私がはじめにテレマークスキーの滑りを目に焼き付け
たのはあのCMからだったといっていい。
 ひと味かわったところでは、ウイダー・イン・ゼリーのCMもクライミングの技
術が取り入れられていた。かの木村拓哉が、ビルの狭間をチムニー見立てビル壁の
中程でレストし、商品を口にくわえているのだ。すると、下からワニが大きな口を
広げ飛び上がってきて、慌ててポジションを取り直すというわけだ。
 このように、街もテレビもいたるところでロクスノの一面に触れるわけだが、実
際にロクスノをやっているという人はまだまだ少ない。何が足りないのか。環境か
、教える人材か、それとも時間か……。
 いずれにしても、道具が流行ったからといって、それを本来の場所で使う者はい
ないのは、昔から変わっていない。タウン用にザックを買った若者が、せっかくだ
から山にも行こうという発想を生むとは思えない。かっこよければいい。それが流
行だ。ただ、業界が活性化するためには、何であれ流行ることは歓迎だ。流行れば
安くなる。正価でしか手に入らなかったものも値引きされる。安くなれば、我々も
うれしい。
 では、次は何が流行るのか。こればっかりは何とも言えない。でもチョークバッ
グが流行るぐらいだから、何でもありかもしれない。近い将来、ハーネスをつけて
、カラビナをじゃらじゃらさせて街を歩く若者が出たって、私は決して驚かないつ
もりだ。

   

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