I MET MR.SUZUKI HIDETAKA

クライミング仙人、鈴木英貴氏にあう
井上大助

 
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「スズキヒデタカ」と聞いてピンと来る現代のクライマーはだんだん少なくなってき
ているのではないだろうか? とはいえ、ちょっと前のクライミング雑誌のインタビ
ューや靴の広告、アメリカのクライミングビデオに登場したりしていたので、会った
ことはないけれど、名前ぐらいは知っているという人はいるだろう。かく言う私もその
クチだった…。

今年6月、プライヴェートのクライミングとサンディエゴで開催されたエクスゲーム
の取材のためアメリカに渡った。ツアーも後半、ネヴァダ州ラスヴェガス郊外にある、
Mt、チャールストンの岩場を訪れ、平山ユージ、飯山健治の二人に合流したとこのこ
とである。
岩場の陰からひょこり現われたその人が、鈴木英貴さんだった。


 私自身のイメージとして英貴さんはすごく険しい人なのだろうと勝手に予想してい
たのだが、それは見事に裏切られ大変気さくな人だった。初対面だった私をすぐに「大
助くん」と親しげに呼んでくれたうえに、ユージたちがすでに転がり込んでいるアパー
トに我々も招いてくれたのだ。

 長いアメリカでのクライミング生活で初めて借りたという英貴さんのアパートはラ
スヴェガス市内にあり広さは大きめの1DKといったところだった。生活はいたって質素
で家具といえばソファーが1つにテレビがあるだけ。それでもしっかりクライミングウ
ォールが作られていたのはさすがである。

 生活はとにかくクライミング中心にまわっていて、ある日の生活は午前中ジムに行
き軽くウォームアップ、午後は日暮れまで岩場でクライミング、夜は再びジムに行きト
レーニングといった感じ…、クライミングがレストの日も決してダラダラすることはな
くレッドロックスにハイキングに出かけ汗を流すといった過ごし方。食事も肉類は一切
食べず、もちろん酒も飲まない。本当に徹底しているのだ。まさにクライミング仙人。

 英貴さんといえばクラックが主体のクライミングをおこなっている人だと思われる
方も多いだろうが現在ではスポーツクライミング(ボルトのルート)がメインとなっ
ているようだ。もちろん、5.12の後半ぐらいサラッと1撃で登ってしまう。パワー
というよりは洗練された上手いクライミング。

 アメリカでは現在「スティッククリップ(1本目、場合によっては2本目のボルトま
で棒を使って予めロープをクリップしておく事)」がポピュラーになりつつあるが、
日本ではこの現象を嘆くヴェテランクライマーがいるし、私自身もあまり好ましく思っ
ていなかった。しかし、英貴さんはそんなことあまり気にしていなさそうだった。もち
ろん英貴さんがスティックを使う事などなかったが、クライミングのスタイルなど他人
にとやかく言う事より自分の中でしっかりできていれさえすればいい、とにかく登れれ
ばいい、ということなのであろうか?。

 とても40代には見えない鍛え上げられた肉体、健康的に日焼けした肌、ユージとは
また違った意味でまぶしく見えるクライマー・鈴木英貴。その生活の多くはまだ謎に
包まれおり、まさにミステリアス。たった2・3日で彼のクライミングライフを知る
事は困難だが、クライマーなら誰もが何らかの影響を受ける事だろう。

 ユージでさえ「英貴さんはスゴイ、英貴さんはスゴイ」を連発していた徹底ぶりだ
が、ユージと別れた後、英貴さんも「平山くんはどうしてあんなに上手いのか、どうし
てあんなに登り続けても平気なのか?」としきりに尋ねてきた。新旧、日本を代表する
クライマーが互いに魅かれ、互いに興味を抱いている様子が非常に印象的なラスヴェガ
スでの数日間であった。
 

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