MID NIGHT EXPRESS IN BYOUBU IWA
屏風岩ミッドナイトエクスプレス全文掲載
森光
テンアンドアンダー・チームがトライした穂高屏風岩のフリークライミング (屏風岩東壁ミッドナイト・エクスプレス~雲稜ルート3P目) フリークライミングを始めてかれこれ15年以上になる。今までクライミング以外にも いろいろなスポーツに手を出してきた。でも自分ではフリークライミングがいちばんおも しろいと思っている。ところがクライミングとはタフなスポーツで、10年やっていたから 上級者になれるなんてことはない。15年やっていても登れるグレードは初~中級者のまま だし、それだってちょっとサボったら登れなくなってしまう。 5・11もそりゃ登ったことはあるけど、どう考えてもイレブンクライマーじゃない。 いや、今やもうイレブンクライマーなんて言葉もほとんど死語か。 初めての岩場に行けば、テンクラスならトライできる。イレブンなら勇気を出さねば トライしない。そんな2人組が今回、穂高屏風岩のフリークライムルートにトライしてみ た。 理由はいろいろ。まず、純粋に大きな岩ををフリーで登りたかったこと。前年行った アメリカのヨセミテで、簡単だが長いフリークライミングのルートを登って、ショートル ートとはまた違ったおもしろさを発見した。やっぱ、スポーツとしてのクライミングでは なく、「岩登り」としての根源的な楽しさがあるよね。ルートファインディングも必要だ し、つぎにどんなピッチが出てくるのかドキドキするし、水や行動食をどれだけ持とうか なんて考えるのも楽しいし。 また、ショートルートばかりだとどうしてもグレード追求的になってしまって、私ら のような反シリアスクライマーは行き詰まってしまうのである。目先を変えて違ったタイ プのクライミングをして、モチベーションを維持しているのよ、これでも。 それから、今、屏風岩はすいているらしい。アプローチが遠く、岩も脆い屏風なんか 行く人はまれなんだそうだ。これはチャンス。私らクライミング歴だけ長いおかげで、屏 風はなじみがあるし、もともと山ヤなので、アプローチもハイキングとして楽しめる。ま た、すいているということは、思いきりハングドッグできるということじゃないですか! ルートはT4尾根を登って、2ピッチのクラック「ミッドナイト・エクスプレス」を 登り、扇岩テラスに出て雲稜ルートの3ピッチ目をフリーでトライしようというもの。ミ ッドナイト・エクスプレスは5・10前半、雲稜の3ピッチは5・11a/bのグレードがつ いている。私らがオンサイトできるグレードぎりぎりのところだ。 8月末の土曜に横尾山荘に入り、快適な一夜を過ごす。山ヤとかいっているわりに思 いっきり軟弱だけど、やっぱ小屋泊まりはラクだよね~。 翌朝、横尾の岩小屋をめざして、工事現場みたいな道を歩く。横尾の橋が壊れていて ブルドーザーが入っていた。おかげで以前の記憶にあった岩小屋はすっかり変貌していて 、もうすでに「小屋」ではない。 横尾の岩小屋跡から対岸に1ルンゼの押し出しが見えたら徒渉しよう。夏とはいえ、 横尾谷の水は冷たい。頭がキンキンするほどだ。 岩でガラガラの1ルンゼを登りつめていく。T4尾根までは40分ほどの急登だ。早め にヘルメットをするのを忘れずに。 天気は上々、絶好のクライミング日和だ。すいている屏風岩でもさすがに雲稜ルート は人気で、先行パーティーが3組いた。私たちがいちばん最後だ。水は今流行のハイドレ ーションパックという、チューブのついた点滴袋みたいなものに入れる。チューブだけを ザック本体から外に出しておくので、登攀中も好きなときに水が飲めて大変便利だ。難点 は、飲み尽くすまで残量に気がつかないこと。食料はこれもアメリカ風に気分を出して、 クリフバーというエネルギーバーを2~3個持っていく。 T4尾根は登り終わってからT4までの歩きの部分がとてもいやらしい。浮き石がた くさんあってロープを引っぱるだけで落石をおこしてしまう。 T4の広場にザックをデポし、空身でミッドナイト・エクスプレスにトライする。 ミッドナイトの1ピッチ目は、雲稜の1ピッチの途中から左に斜上しているクラック だ。雲稜の簡単なコーナーを登り、ミッドナイトに入る。クラックはずいぶん斜めで、見 た目は超カンタンそう。思わずパートナーに「5・8にしか見えないよ~」と叫んでしま う。ところがどっこい、甘かった。フットホールドも乏しく、プロテクションのセットも 難しい。ついに終了点間際にテンションを入れてしまう。 ミッドナイト2ピッチ目はさらに悪い。相棒はリード中「ひょえ~」とか「こえ~」 とか言っていたが、それもナットク。クラックに泥がつまっていて、生えている草をうま く押さえながらのクライミングだ。 ぐったり疲れて扇岩テラスに到着。雲稜3ピッチ目はつるつるに見えるんですけど… …。オプションとして考えていた「ファイナルカット」はプロテクションが見あたらず、 とても恐ろしそうなので速攻で却下。 なにはともあれ、フリーでトライしてみる。でも1本目のペツルボルトまではおろか 、最初の5ムーブもできない。なんて難しいの! ふたりで交互にトライするも、ちっと も進展なし。「11a/bならひょっとしてオレがオンサイトかな」なんて心中密かに思っ ていたふたりともがっくり。 しょうがないのでトップロープをセットすることにする。卑怯ながらザックに忍ばせ ておいたアブミで登る。さすがにぐいぐい登れる。あたりまえか。50mロープを2本つな いでトップロープを張り、再度トライ。トップロープの威力はたいしたもので、なんとが ムーブがつながった。やはり、核心は出だしだった。でもリードしたら5・11cくらいは あるんじゃないかな。 下降は、扇岩テラスからトラバースして、蒼氷ルートを下りるのがロープの流れがス ムーズでよい。 今回はオンサイトなんてとんでもなく、フリーで登ったとすらいえ ないが、登り終えたあとはとても充実感があった。これがロングルートの醍醐味なのだろ う。扇岩テラスも快適だし、またいつかトライしてみたいと思う。 (文=森 光 写真=●●●●) http://www.asahi-net.or.jp/~BA8K-ITU/
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