伊藤忠男
3ピッチ目をリードするCHU
ボチボチ黴の臭う記録。94年11月3日。 何年か前に7ピッチまで登ったが、新人を連れていたこともあって時間切れで引き返した 。2、3、4ピッチ目の核心は一応僕がオンサイトしている。今回は相棒がぴかちゃん( 森光)でクライミングの力は僕より上だし、それにタフだ。 先行するパ-ティ-がクウィ-ンズウェイに入っていくのを見て安心した。どこにいても この壁の中で石を落とさずに動くことは殆ど不可能だから、同じル-トに複数パ-ティ- で取り付くのはホントにヤバイ。 1、2ピッチ目は僕がリ-ド。2ピッチ目は出だしのかぶり気味のクラック(5.8) から、微妙なトラバ-ス(5.9)。ちょっと濡れていて緊張する。3ピッチ目が下部 の核心でぴかちゃんの出番。今日的なム-ブが連続するがボルトの間隔も近い。楽々オ ンサイト、...やるじゃん(5.10d)。 フォロ-しているときに“ラ-ック”の声で身を伏せた。ぴかちゃんの肩に小さな落石 が当たったがダメ-ジはないという。4ピッチ目はグレ-ド(5.10a)の割りには 考えさせられる。パズルはとうに解いてしまっている僕がリ-ド。 5ピッチ目はもろい、ぴかちゃんは下部城塞を超えて姿を消した。ロ-プ一杯でコ-ル がかかりフォロ-。中央バンドに顔をのり出すと、ロ-プラインがおかしいことに気付 いた。彼は右へ振りすぎて、すでに6ピッチ目に当たる部分までカバ-してキャプチュ -ドのビレイ点にいる。難しくはないが絶対に落ちられないフォロ-になってしまった 。 7ピッチ目で僕がマニフェストへ修正する。8ピッチ目、快適そうな上部城塞はぴかち ゃん、手の切れるような被り気味のカンテを辿ってやはりオンサイト(5.10b)。 9、10ピッチ目の易しいフェ-スを超し、上部核心と言われるフェ-スもぴかちゃん に譲った。彼は長いリ-チを活かして、どこが難しいのか分からないといった感じでク リア-した(5.10d)が、僕はホ-ルドが欠けて落ちた。そう難しい気がしなかっ たので、くやしい。 鷹巣ハング下のテラスに着くと、手から血がぼたぼた出ているのに気付き、最後のピッ チは僕の番だがぴかちゃんに変わってもらった。右上するクラック、高度感とランナウ トで気が抜けない(5.9)。彼はこのピッチが一番緊張したそうだ。 さらに2ピッチ、腐った岩屑を避けて紆余曲折し、ロ-プを解いて下降点を探し廻るが 、踏跡は判然としない。どこをどう歩いても足元の岩屑がずるずる動いていやな感じだ 。トポにある“大きな松ノ木”も2本や3本じゃないので、さらに迷う。迷っているう ちになんとなくそれらしい踏跡が見つかっった。分かれば、30分で取り付きへ戻れる が、どうやって分かったのか、二人とも説明できない。 僕たちはいまだに、あそこの核心は終わってからヨ、と口を揃える。懸垂の方がいいの かもしれないが、石灰岩は雨水での侵食が顕著で、懸垂(ボルト)支点がみんな、首が 出ている。整備するよりも歩いた方がいいもんなあ。まっ、馴れだろうけど。取付8時 、終了12時30分、駐車場2時。