KISYA
槍沢をすべる
ゴールデンウイークの北アルプスにはスキーを持って行くのがいい。 春のざらめ雪は快適なシール登行を約束してくれるし、下りは痛快のひ とこと。雪のない時期では考えられないようなスピードで山やまを駆け 抜けることができる。ときに山は冬の姿に戻ることもあるが、そのあと には素晴しいパウダースキーイングが待っている。 立山、白馬、乗鞍など、スキーで遊びたい北アルプスの山はたくさん あるが、いちどトライしてみたいのが、立山から槍ガ岳までを縦走する ”日本のオートルート”。 これは長くて、そして面白い。真冬には人を寄せつけないロングルー トだが、春には格好のスキールートに変身する。、ゴールデンウイーク に営業する山小屋も多く、それらを利用して、ちいさなパックで軽快に 行動することができるのもうれしい。 1955年5月3日早朝、立山室堂を三つのグループが槍ガ岳をめざし南下 を始めた。二つのグループはテレマークスキーで、もう一つのグループ は全員が山スキー。利用できる山小屋は限られているので、順調に進め ば全員がおなじ行程をたどることになる。ちょっとした山岳ラリーの雰 囲気だ。 初日はガスと小雪の悪天。ルートファインディングに苦労しながらや っとこさ、五色の小屋にたどり着く。 二日目は高曇りで展望あり。薬師岳越えの長い一日。天気が崩れること もなく大助かり。足が棒になるころ太郎平小屋へ入る。テレマークチー ムの後発二人が神岡新道から北ノ俣岳経由で合流。この夜、雪。 三日目。停滞か? 朝食後、薄日がさしてくる。歓声とともに出発。 まばゆいばかりの新雪をラッセルしながら双六小屋をめざす。黒部五郎 岳のカールを小さな雪崩とともに滑り降り、極上のパウダースキーイン グを楽しんで、四時には、全チーム、暖かい双六小屋へなだれこむ。抜 きつ抜かれつを繰り替えすうちに三つのチームも渾然化し、小屋ではビ ールが飛び交う。 四日目。槍ガ岳を越える日だ。時間切れの数人が新穂高へくだる。槍 ガ岳組はスキーをパックにくくりつけて、西鎌尾根を行く。槍岳山荘で ランチのあといよいよ最後の大滑降、槍沢をくだる。滑りがいのある大 斜面だ。槍沢ロッジでスキーをぬげば、このスキーラリーも終点ま近か 。横尾で休む者、気合いを入れていっきに上高地まで下山するものさま ざまだ。 比較的天候に恵まれ一日の停滞もなく行動できたのはラッキーだった 。何度もこのルートにトライして、悪天に阻まれた人も多いからだ。