台風が来た
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8月31日~9月10日 石塚竜夫 8月31日 横浜 > 上高地 上高地への夜行直行バスの予約が取れた。これで一安心。横浜SOGOの第一駐車場が見 つからずに焦るが、何とか間に合った。車中はちょっと寒かったが、少しでも睡眠を 取れるようにウトウトする。 9月1日 上高地 > 涸沢 (テント泊) 7:00上高地 > 8:00明神 > 9:00徳沢 > 10:00横尾 > 13:30涸沢 6:00上高地着。焼岳に行こうか迷ったが、今回はパス。良く考えたら日程に余裕 がない。焼岳からの稜線歩きも不安。アークボラ65が満杯で35キロから40キロくらい の重量。入りきらない食料はスタッフバッグに入れ、トップリッドにストラップで固 定した。 最初はハーネスが肩に食いこんでツライが、バックレングスを最大にしたら良く なった。おれって胴長なんだなぁと、しみじみ思う。 荷物は重いが、ほぼコースタイムどおりに歩けて一安心。横尾のキャンプサイト は、芝生が綺麗で泊まりたい気持ちが高まるが通過。槍に向かう人多く、涸沢はテン トも数えられる程度しかなかった。ガレたテントサイトにペグがなかなか効かなく て、非自立式のテントはこんなとき辛い。 14時ころからウトウトして、16:30に改めてテント受付。受付の兄ちゃんの、「が んばってください」の声が嬉しかった。でも、スタートしたばかりなんだけどねぇ… 涸沢小屋は清潔で、スタッフも親切。今度はニョーボを連れて来たいなぁ。生ビー ルが格別に美味い。生800円、テント500円 9月2日 涸沢 > 奥穂高岳 > 北穂高岳 (小屋泊・素泊まり) 7:00涸沢 > 10:45奥穂高岳 > 11:30白出のコル > 14:50北穂高岳 寒い。MTSのタイツを忘れたのだ。あれがあれば、暖かく眠れたのに…なんで忘れ たのだろう?(後で、タイツの代わりに着替えのトレッキング用パンツを選んだこと を思い出す。眠るときは重ね着、下山してからの着替え用としてタイツの代わりにこ ちらを選んだのだ) 4:00ごろ目覚めてしまうが、ウトウトしつつ涸沢を7:00に出発。だいたいコース タイムどおりに10:15ごろ穂高小屋到着。ザックをデポし、トップリッドをウェスト パックにして奥穂高岳に向かう。11:00ごろ頂上着。途中からジャンダルムが綺麗に 見える。槍も見え、行く先が…やや思い悩まれる。 11:30に穂高小屋に戻り、北穂に向かう。弘前大の学生に、「これから北穂です か?がんばってください」と、意味ありげに励ましてもらう。理由に気付いたのは涸 沢岳。垂直の鎖が下がっている。10m~12m… マジかよと思う。ストックをしまい、 ザックのストラップを締め直す。落ちたらおしまいだ… 一歩一歩スタンスを確認し、チムニーをステミングで下る。ホールドもいまいち信 用できず、ニョーボの顔が目に浮かぶ。「こんなところで死んだらシャレにならな い!」と思いつつもザックは岩にとられ気持ちは焦ってくる。切りぬけたと思った ら、短いトラバースがあり、また垂直のクサリ…クライミングやっていて良かったと 思う。35kg背負ってのクライムダウンだ。 ホールドが豊富なのは助かるが、どれも信用できない。ちょっと持っただけならOK でも、荷重をかけると動き出す。荷物と体重で100kg近くになっているのだ。その後 も馬の背状あり、トラバースありで北穂には14:50ごろ到着。天候も崩れてきた。テ ン場は南稜にあり、風雨の影響を受けやすい。装備を考えて小屋泊。営業小屋に泊ま るのは、良く考えたらこれが初めての経験だ。今まではテント、雪洞、そして避難小 屋しか使ったことが無い。 小屋泊は嫌だ(後日、針の木でかなり印象は良くなったが)。せまいスペース、蚕 棚に詰めこまれ湿った蒲団に寝る。沢山の中高年が、お互いになぜかライバル意識を 出して会話する。素泊まりで5,500円ナリ。こんな山行をしていたら、金がいくら あっても足りないが、あきらめることとする。 翌日の降水予報は午前50%、午後70%。南岳への大キレットはさらに危険度満点との こと。しかもそれが連続する。どうしようか迷いに迷う。結局4:00に起きて天候次第 と決める。悪天であれば横尾に戻って槍沢を登り返す。無理は禁物だ。 9月3日 北穂小屋 > 横尾 > ババ平キャンプ場 5:30北穂発 > 7:30涸沢 > 10:00横尾 > 1:30槍沢ロッジ > 2:30 ババ 平 4:00起床。天気は相変わらず。別パーティーの3人組は、霧雨・ガスの中を突いて 南岳に向かう。それを見ていて心は揺れ動いたが、冷静になるように努める。小雨の 中、涸沢に向けて出発。槍沢ロッジまで順調に進み、ニョーボと会社に電話で報告す る。 横尾からは薄日がちらつく。寂しいような気持ちを覚えて、良く考えてみると「も う本当の意味でのソロ山行ができなくなった」と考えていることに気がついた。俺も 大人になったもんだ。 ロッジで受付をして、テン泊していると雨。シュイナードは健闘しているがやはり雨 は漏ってくる。まぁ仕方ない。下地の水はけが良いのが救いと考えよう(この時点で は…)。明日はいよいよ槍、そして双六まで足を伸ばす予定。身体を清水で拭いたら 気持ち良い!今夜は快適に眠ることができそうだ。 明日も目標は4:00起き。体重が減っているのをやや実感し始める。3kgくらいは 減ったのかもしれない。ウェスト横のダブツキが無くなったように思う。 なんと夜半より豪雨となる。0:00から1:00頃には雷も激しく鳴り、一本ポールの シュイナードの自分は、だんだんとドキドキしはじめる。これは避雷針じゃない ぞ、、、早くどこかへ行ってくれ!雨漏りも、、、すごい。すべてがグショグショに なりつつある。装備はすべてバックパックカバーを流用した巾着袋に突っ込む。ビ ビーサックは無事だが地面を雨が流れはじめて、水路作りに追われる。 9月4日 ババ平 > 槍ケ岳 > 双六小屋 (テン泊) 6:00ババ平 > 7:00大曲 > 10:00槍岳山荘 > 10:30槍山頂 > 12:00千丈 沢乗越 > 15:00樅沢岳 > 16:00双六小屋 4:00起床。雨の翌日の撤収には時間がかかる。6:00に出発。ほぼコースタイム通り に槍の肩に到着。槍沢ヒュッテの少し下で日本猿の群れを見かける。ヒュッテから先 の登りがキツカッタ。肩の小屋では、取り壊しの準備が進んでいた。槍へは10:30頃 登るが展望はまったくなし。証拠写真のみ撮って、下山しようとする。そういえば、 と思って新田次郎の小説で想像を巡らせた北鎌尾根を覗く。うーん。夏ならまだし も、冬季にこんなところを登るとは…想像を絶する世界に思いを巡らせる。 11:00に肩を出発し、西鎌尾根へ。千丈沢乗越までは順調だが、それからが長かっ た。ガスで視界が悪く、どれが樅沢岳なのかまったくわからずにいくつものピークを 延々と越えていく。本当の樅沢岳を登るときにはヘトヘトになっていた。双六小屋へ は、コースタイムをややオーバーして入る。ハードな鎖場はなかったが、距離が長 かった。今日も小雨。 今後の日程をチェックすると、予備日が無いことに気付く。穂高への2日間。それ から横尾まで戻ったことで、親不知到着が16日になってしまう。明日からペースをあ げて、本来の日程に近づけるか…それとも朝日岳までを目標とするか… やるだけ やってみよう。昨日の夜、槍で聞いた話では台風が2つも接近しているそうだ。最悪 の場合は、白馬から下山するなどの対応も考えなければならない。 9月5日 双六小屋 > 鷲羽山 > 野口五郎岳 > 烏帽子小屋 5:40テン場 > 8:30三俣山荘 > 9:50鷲羽山 > 11:00赤岳(水晶小屋) > 14:30野口五郎岳 > 14:50野口五郎小屋 > 4:00三ツ岳 > 4:45烏帽子小 屋 小雨の中、撤収。昨日よりも早く起き、5:40に出発。今日は水晶小屋まで、できれ ば野口五郎小屋まで行きたい。もし、烏帽子小屋まで行ければ遅れを取り戻すことが できる。早起き、早起き… 双六と三俣蓮華は、今回はあきらめて巻き道を通る。日程の遅れを取り戻さなけれ ばならない。しかし、巻き道もアップダウンがあり意外と大変だ。ハイマツが茂り、 小雨で濡れた枝がパンツを濡らす。今日もレインパンツとオーバーゲイターが手放せ ない。ブーツはすでに芯まで濡れていて、非常に不快だがしかたがない。靴下を腹に 抱えて、寝るときに着干しするのだが完全には乾かない。臭い。 鷲羽山への急登は、思ったよりも順調。久しぶりに天候が回復しつつある。鷲羽池が キレイに見え、ガスの晴れ間から槍が時々姿を見せる。 赤岳までも順調に足を伸ばす。水晶小屋には「北アルプスで一番小さな小屋」と看 板が。また、「労山会員の方は、宿泊受付のときに申し出てください」ともあった。 小屋番と少し会話する。「烏帽子までですか?」と聞くので、届く距離なのかと欲が 出てくる。野口五郎小屋はすでにクローズと聞く。どうするか迷う、が、とにかく 行ってみよう。 真砂岳までが思ったよりも時間がかかる。それに、どれが東沢乗越なのか解らん。 あいかわらずのガスだが、晴れ間からの日差しが強い。今回の山行で初めて日よけ用 のパドリングハットを出す。しかし真砂岳手前でまたまた濃いガスが湧いてくる。野 口五郎岳の登りは、得意なザレた坂道となり、踏ん張りつつ登りつめる。 野口五郎小屋は8月30日でクローズされている。時間はまだ余裕があるが、ガスの 為すでに夕方の雰囲気。毎日毎日こんな状況で、気が滅入ってくること甚だしい。一 服してから、早々に出発。三ツ岳までがとても長く感じる。相変わらず、どのピーク が三ツ岳なのか判明しないまま登下降が続く。 三ツ岳から先はザレ場の下りで、快調に足がでる。烏帽子小屋への最後の下りにさ しかかる前には、烏帽子岳と南沢岳が姿を見せた。烏帽子岳は、ミニ槍ケ岳といった たたずまい。インターネットで手に入れた山行報告を読むと、烏帽子から船窪までが 最大の課題であるとのこと。気が引きしまる。 烏帽子小屋らしきものと(後ほどそうでないことが判明するが)ひょうたん池が姿 を見せる。なんと、ひょうたん池からテン場受付となる小屋まで標高差100mはありそ う。やれやれ、荷物を置いて小屋まで行くかどうするかまようが、とりあえず担ぎ上 げる。小屋番は商売っけのありそうな親父。調子に乗ってビールを3本も買ってしま うが、50円マケテくれた。 烏帽子、南沢岳方面は、気を付けて行けば大丈夫とのこと。ちょっと拍子抜けだ。 水が1リットル200円だったので、買わずにMSRのミニ・ワークスで浄水する。まぁ まぁ快適に2リットル以上の水をひょうたん池で作る。夕食を多めに取り、明日の朝 は行動食だけで速攻出発することとする。今日は疲れた。がんばった自分を褒めてや りたい。 9月6日 烏帽子小屋 > 烏帽子岳 > 船窪岳 > 船窪小屋 (テン泊) 5:20烏帽子小屋テン場 > 5:45 烏帽子への分岐 > 8:30不動岳 > 11:20船 窪岳 > 1:45船窪乗越 > 3:45船窪小屋 (テン泊) 3:50に起きる。真っ暗なので、キャンドルランタンとヘッドランプで出発準備。晴 れ、寒い。テントの内側は一部霜が付いている。久しぶりに寒くて目がさめた。裏を 返せば、朝晴れた日が久しぶりということだ。 朝食は行動食で済ませて、手早く片付けたつもりだった。しかし、真っ暗なため手 間取り5:20出発となる。素晴らしい朝焼けと雲海。今朝はすべての荷物がザックに収 まる。今までトップリッドに縛り付けていたスタッフバッグ(食料が入っている)が 無くなり、単純に嬉しい。でも、その嬉しさを分かち合える人がいないのは寂しい なぁ。 ここ何日か、ニョーボのことを考えることが多い。これが終わって、「ただい まー」と帰っても誰もいない部屋… そして耳垢掃除を自分でやらなければならない こと… 仕事でいつも誰かと一緒にいると、時々無性に一人きりになりたくなる。でも、今 回の旅では、パートナーのいる素晴らしさを解ったように思う。 今日の行程は、事前の情報どおりキビシイコースだった。「2度とやりたくない ルート、ワースト3」を選んだら、必ず入るだろう。不動岳まではそこそこ快適だっ た。コマクサの群落もあり、すがすがしい。いかにも人があまり入らないルート、と いった雰囲気。高原状のトレールが続き、烏帽子山頂も花崗岩の岩塔が並びワクワク する。四十八池(烏帽子田圃)も、趣があって「ここでキャンプしたい」と思わせる ものがあった(もちろん禁止だが)。 2299m峰までは良く晴れ、時々は槍方面にも晴れ間が出る。赤岳も、三ツ岳も見 え、しみじみとした余韻を感じる。ここから船窪乗越までがキビシイ。 油断のできない崩壊した馬の背状。信用の置けないトラロープをたどり、グズグズ に崩れる岩稜を巻いて行く。どれが船窪でどれが乗越かわからんくらい岩稜が連続し て続く。針の木谷への分岐を過ぎてから、急にガスが巻き、雨が降り始める。思った よりも本格的な雨となり、雨具フル装備した所で小雨に変わる…マーフィーの法則だ な、こりゃ… 5分の急登で全身がずぶ濡れ。汗と小雨で中も外もビショビショとな る。とっとと雨具を外し、最後の踏ん張りとするが、木の根を掴んでの急登下降が連 続。体力の消耗が激しい。 テン場に到着してがっかり。急なはしごの真下にあり、小屋からも遠そうだ。荷物 をデポすることを考えたが、天候が悪化しつつあったのと「もしかしたら小屋から近 いところにもテン場があるかも?」という根拠の無い希望を元に担ぎ上げる。受付を すませたが、やはりテン場はさっきのところとのこと…再度急な下降をしてテン場に 戻る。テントを張り終えたところでまたまた雨。今日も雨漏りとのやりくりが始ま る。 小止みになるのを見計らって水場に行くが、足場が悪く最後はロープを伝って水場 に到着する。 水場から帰ったら雨がやんだ。なんだがアイロニカルな話だ。 とっとと飯を食って、寝る準備をする。飯を食い終わったら、またまた本格的な雨と なる。今日もすべての物が濡れていく、あぁ。手足の爪を切って、寂しく寝る。 9月7日 船窪テン場 > 蓮華岳 > 針の木小屋 (小屋泊、夕食付き) 7:00船窪発 > 7:45七倉乗越 > 8:50北葛岳 > 9:30北葛乗越 > 12:00蓮 華岳 > 12:45針の木小屋 今日は寝坊を決め込み5:00起床。スリリングな水場で給水し、7:00出発。行程が短 いので、のんびり休み気分で歩こうと思っていたが…あてが外れる。北葛への細かい アップダウンで少々バテ気味。 蓮華岳は中腹まで蓮華の大下りを登る。岩場の登行が続く。鎖とハシゴが連続し、 神経を使うルートだ。ガスが濃いが、雨でないだけましと自分に言い聞る。下方には 雲海。 岩場が終わったところで(不幸中の幸い)雨模様となる。少々我慢したが、風雨が どんどん強まり、今日も雨具で完全装備。蓮華山頂は風雨とガス。写真も撮らずに下 る。針の木小屋までの間で、雨脚がさらに強くなり全身ずぶ濡れ。コマクサの群落も たくさんあったが、雨の為撮影ができなかった。雨具の撥水加工も限界となっていて まったく水を弾かない。今日は小屋泊とする。到着は12:30。時間には余裕がある が、横殴りの雨。 小屋は清潔で、広々している。休憩室は畳敷きで、石油ストーブが燃えている。そ れに!なんと!乾燥室なんてものがあった。涙がでるくらい嬉しかった。乾燥室のス トーブに火を入れてもらい、装備を乾かすこととする。しばらくずーーーっとビショ ビショだったブーツも、少しは乾燥させることができる。 夕食も頼んだ。久しぶりにきちんと炊いた飯が食えると思うととても楽しみであ る。 外は雨風がさらに強くなり、小屋泊にして良かったとしみじみ思う。夕飯は大当た り。3杯お代わりをする。分厚いポークソテー、ポテトとコンビーフの炒めもの、ア ジフライ、、、旨くて泣けそうだ。ただ…小屋泊が続くと資金が持たない。明日は種 池にてテン泊だが、天候はビミョーなところだ。 今日は雨の中歩きながらいろいろ考えた。転職活動のことや、ニョーボと、ニョー ボの腹の中にいる子供の事。こうしているとき、会社がどうなっているかは、もうど うでも良くなってきた。周囲のスタッフのことは気にかかる。一緒に仕事をしてきた 仲間であるし…でも、会社の持つ輝きは、すでに自分の中では失せつつある。 夕方から天候は回復しはじめた。槍も見え、少し希望が見えてきた。親不知からの 縦走者が小屋に到着した。30歳。佐藤さん。N社の社員で、感じのいい人だ。N社もリ ストラで出向辞令が出ることになっているそうだ。いろいろと情報交換をして、互い に勇気付けあう。 9月8日 針の木小屋 > 針ノ木岳 > 爺ガ岳 > 冷池山荘(テン泊) 5:20針の木出発 > 6:20針ノ木岳 > 7:20スバリ岳 > 9:00赤沢岳 > 10:00鳴沢岳 > 11:00岩小屋沢岳 > 1:15種池山荘 > 2:15爺ガ岳(北峰) > 3:30冷池 山荘 せっかくの小屋泊、撤収が楽なのを利用して5:20出発。日の出が5:20なので、日の 出と同時に出発とする。朝焼けが素晴らしい。槍も、富士山も、浅間も見えた。 噴煙を上げる浅間を西から見るのは初めての経験だ。旧友の違った姿を見たよう で、なんだか嬉しい。台風を考えて、針の木からの撤退も考えたのが嘘のように晴れ ている。しかし下界は相変わらずの雲海。針の木岳のピークを過ぎた頃から、この雲 がどんどん上昇してきた。 濃いガスは新越(シンコシ)山荘まで続く。ここからガスは晴れ、岩小屋沢岳を過 ぎた頃から半袖・半ズボンとなる。風は相変わらず強いが、日差しが強く心地よい。 種池山荘に着くころには、すっかり晴れた。 今日はやけにすれ違う人が多いと思ったら週末だった。団体のパーティーも多い。 爺ガ岳がすっきりキレイに見える。南峰からまたガス。冷池(つべたいけ)山荘に 着く頃には、雨の心配をしなければならなくなる。これまで山荘に着くたびに、公衆 電話をチェックするがどこにも無い。ニョーボの声も聞きたいし、これだけ天候が不 安定だと向こうも心配していると思う。 タバコもそろそろ厳しくなってきたが、これも販売していない。今日のキャンプ地 は山の斜面。できるだけ風の影響が無さそうな下部にテントを張る。水は1リットル 150円。明日の希望的な予定では、鹿島槍を超え、五竜岳を超えて五竜山荘にてテン 泊。行動時間は10時間の予定。荷物も軽くなってきたので体力的には楽になりつつあ る。日程的にも、遅れを大分取り戻すことができそうだ。というよりも、遅くなった ら金が足りなくなってしまう。がんばろう。ニョーボの事と、台風だけがちょっと気 がかり。 9月9日 冷池 > 鹿島槍ガ岳 > 八峰キレット > 五竜山荘(素泊まり) 6:00冷池 > 7:10布引岳 > 8:00鹿島槍ガ岳 > 10:00キレット小屋 > 11:00口ノ沢のコル > 1:20五竜岳 > 2:15五竜山荘(素泊まり) 夕べは風が強く、テントが一晩中暴れていた。テントが飛ばされたり、修復が不可 能なくらい破れてしまったら山行が成り立たなくなってしまう。不安で良く眠ること ができない。雨も3~4回降る。相変わらず雨漏りはするが、仕方ないとあきらめる。 テントの下部は、ほとんど地面と水平なので、雨が垂直に当たる。よって、この部分 の雨漏りがひどい。夕べは2回ほどペグの固定をやりなおし、少しでも雨をハジキ流 すようにした。もちろん風対策ともからめて… 荷物が少なくなったので、ヌレ対策 については多少楽になった。 キャンドルランタンの灯りの下で出発準備。5:45に鹿島槍に向かって歩き出す。濃 いガスと強い横風を受けている。100人の団体さんが先行していて、追いぬくのに ちょっと大変だった。この風雨の中を良くやるよ… 見てみると、コンビニのビニー ル袋を小脇に抱えている人や、ビニールポンチョを着ている人もいる。大丈夫なのだ ろうか。 布引山の手前で、雨具を完全装備。団体さんに追いつかれたが、「ここから稜線上 にでるから、上下とも雨具を着けたほうがいいですよ」とアドバイス。目論見どおり 団体さんはそこでストップして、バタバタと雨対策をやりだす。そのスキに先を進 む。 ガスの中登っていくと、何の変哲もないピークが槍だった。頂上では5~6人の団体 さんが3組くらい記念撮影をしていたが、早々に先に進む。キレットを見渡すが、ガ スで何も見えない。キレット小屋を通過して、進むのはリスキーかもしれない。だ が、鎖もしっかりしているとのことだから、何とかなるだろう。いきなりの急下降に ちょっとビビルが、行くことにする。北峰分岐を通過し、キレット小屋の手前で本格 的な鎖場、ハシゴが現れる。ただ、八峰キレットは鎖もしっかりしており、あまり怖 さを感じない。岩場が滑るのが、神経を使うくらいだ。 キレット小屋では、横殴りの雨となり、雨宿りをさせてもらう。公衆電話は無し。 タバコは販売していた。なけなしのショートホープは、雨でビショビショだったの で、やむを得ず捨て、マルボロを2箱補給する。 きれいな自炊部屋で、小屋番も感じが良い。ここで素泊まり…と思ったが、小屋番 の兄ちゃんから天気図を見せられてがっかり。台風15号と16号が2つも近づいてい る。特に15号はまだ本州から遠いのにも関わらず、山岳への影響が大きいタイプのよ うだ。キレットにはエスケープルートが無い。もし、ここで3泊停滞したら、資金も アウト。 台風は11日に上陸する可能性が強く、明日になればさらに天候が悪化する模様。 ニョーボも心配しているだろうから、五竜まで抜けて電話をしてあげたい気持ちも あった。五竜への登山道は、キレットよりも困難だが、鎖やハシゴはしっかりしてい るとのこと。登山道はほとんど稜線の西側に付いており、東風が吹いている今のうち に五竜まで抜けたほうがいいとも判断した。向かうことにする。 カーボショッツを、岩陰で食べながら五竜へ。最後の急登と鎖場が厳しい。山頂直下 は、登山道が沢のような流れになっており、落石も起こりやすい状況。緊張しながら 進む。コースタイムをオーバーしながら五竜の山頂に立つ。強風とガス、横殴りの雨 の中視界は無い。下山を開始する。 下りにも何箇所か神経を使う鎖場。ゆっくり、ゆっくり登山道を辿る。 五竜山荘には14:15到着。こんな天候でも、遠見尾根を登ってくる人がいた。テン ト泊をする人も3名ほど見かけた。稜線の西側にテン場はあるから、大丈夫なのだろ うが、、、がんばるなぁ。 乾燥室に荷物をぶち込む。やはり台風はこちらに向かっているようだ。風も雨もど んどん強くなっていく。ここまで来て残念だが、明日遠見尾根を経由して五竜遠見ス キー場に下山することを決めた。 下山を決断したら気が楽になって、ビールとコッ プ酒を買ってしまう。 ビーフジャーキーを齧りながらビールを飲んでいるうちに、 「一度下山してから、鑓温泉に向かい、そこから白馬に上がって続行しようか?」と か、 「まず電車で親不知に抜けて、台風の影響が比較的少なそうな逆ルートで五竜までつ なげようか?」 なんて案も浮かんでは消える。 ビールを飲みながら地図を見ながら検討を続ける。往生際が悪いこと甚だしい。 やはり日程的に厳しいようだ。足の速い台風ならまだしも、今回の台風はゆっくり 近づいてきて、山への影響が大きいタイプなのだから。休暇を1日延長することを考 えている自分に気付くが、それを始めたらきりが無いだろう。今までの行程で、歩く のが嫌になったこともあった。靴が壊れたり、テントが破れたりしたら「下山やむな し」という言い訳になるなぁとも考えたことがあった。でも、ここまで来ると、そん な気持ちはまったく無い。 下山したらやりたいことをリストにしてみる。 1: ニョーボに会いに、気仙沼まで行く 2: 温泉でアカを落とす (できれば角質層を柔らかくする硫黄泉…) 3: 耳垢をほじる 4: 選択する 5: 防水完璧のテントでオートキャンプにでかけ、温泉・焚き火・読書三昧。 6: 週刊文春を読み、定価のビールを浴びるように飲んで酔っ払う 7: 小川山でクライミング やれやれ… 翌日の出発準備を済ませ、適当に眠る。 9月10日 五竜山荘 > 白岳 > 大遠見山 > 五竜とおみスキー場 7:00五竜山荘 > 7:30白岳 > 9:00大遠見山 > 10:00中遠見山 > 11:00地 蔵ノ頭 > 11:15アルプス平駅 不本意ながら、最終日。今日も朝から強烈な風雨。山荘に泊まっている他の人は全 員停滞のようだ。相変わらず東風が強烈に吹き荒れる。自炊場の壁や天井からは雨漏 りがしている。7時ごろ身支度を整えて山荘の正面口に行く。 遠見尾根の入り口を地図で確認すると、白岳を越えて行くことになる。山荘のス タッフに確認すると、頂上直下から遠見尾根に入るまでは東風がまともにあたるとの こと。「無理だと思ったら、引き返して来てくださいね」と、励まし?の言葉をかけ てもらう。 ザックカバーが風で吹き飛ばされないように、細引きで上からグルグル巻にして出 発。山荘入り口を出た瞬間、ヤッケのあらゆる隙間から雨が進入してくるのが判る。 顔をそむけて西側を見ると、稜線下にテントが3張りある。根性ありますなぁ。 白岳への登りは、右下からの風をまともに受ける。雨具のフードが顔に下がってく るのを避けるため、つば付きのキャップをかぶっているのだが役に立たない。つばの 裏側に叩きつけるように雨が吹き上げてくる。右目が開けられない。開けるとあっと いう間にコンタクトが叩き出されてしまいそうになる。ぼやけた視界の中で白岳の山 頂に到着。ここで迷うわけにはいかない。 コンパスとマップで方向をきちんと見極める。岩陰に潜んでいないと、立っている ことも難しいような状況だ。風に正対する方向に遠見尾根が伸びているはず。そちら に向かって歩き出す。ストックは思いきり短くして、ダブルで耐風姿勢を取る。一歩 ずつ前進していく。西遠見山まで300m弱下降すると、ようやく風も弱くなってきた。 右からは、白岳沢がゴウゴウと流れ下る音が聞こえる。登山道も凹状のところは流れ になっている。 中遠見山あたりまでくると、五竜遠見スキー場からのトレッキングコースとして整備 された道となってくる。風も落ち着いて、雨も小降りになる。稜線上が嘘のようだ。 地蔵の頭を超え、テレキャビン山頂駅へと向かう。山頂駅では森隊長とニョーボに 電話で報告し、生ビールを飲んで下った。下山時のザックの重さは27kgとなってい た。本日もずぶ濡れ。気合が残っていたら、鑓温泉に向かおうと思っていたが…おと なしく帰京することとした。 追記: この後、神城駅に到着すると「台風で中央線が不通」「東海道新幹線は今の ところ大丈夫だが、いつ停まるか判らない」と言われてしまう。関東地方も直撃する おそれがあるから、名古屋まで出て新幹線で帰るのが一番確実だと助言された。アド バイスどおりにしたがい、ひかりは座れそうになかったのでこだま号で帰路につい た。 結局下山後に温泉に入る余裕も無くアタフタと電車に揺られることとなってしまっ た。